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カート・コバーンの「マインド・ツリー(心の樹)

 騒がしい子供と「イマジナリー・フレンド」   top (2)(3)(4)

 

 

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 はじめに:幼年期への旅

 27歳で夭折したグランジ・バンドの雄「ニルヴァーナ(涅槃)」のヴォーカリ
 スト、カート・コバーンの、「マインド・ツリー(心の樹)」をたどってみま
 しょう。グランジ・ロックがポスト・パンクやハード・ロック、インディー・
 ロックなどを源流としているように、カート・コバーンの生命の流れも、様々
 なストリームが流れ込み、「魂」とぶつかりあい、激しいライフ・ストリームと
 化しました。ニルヴァーナを若者に刻印した代表曲「Smells Like Teenage
 Spirit」のように、カートの「魂」は、匂いを放つように飛び出したのです。
 数々の「作品」やステージは、カートの魂の「映し鏡」ですが、どのようにカ
 ートは彼自身の音楽にたどりついたのか、その「魂の軌跡」をたどってみると、
 彼のサウンドを彷彿とさせる興味深いことにたくさん出会います。
 そして私たちも、それに気づくことで真のカート・コバーンにより近づくことが
 できるにちがいありません。同時に、それは翻って、私たち一人ひとりの幼年
 期、少年期への「旅」、つまり私たち自身への「旅」の入口の一つになるのかも
 しれません。

 両親は、労働者階級の典型

 カート・コバーン(Kurt Donald Cobain)は、1967年、2月20日にアメリカ
 ・ワシントン州の州都シアトルの北方の太平洋沿いにある小さな村ホキアム
 (一般的にはその近郊の町アバディーンとされている)
で生まれています。アイルラ
 ンドとフランスの血を引く父ドナルド・コバーン(通称ドン)は、シェブロン
 のガソリン・スタンドで自動車修理工として、母ウェンディ(ドイツとイングラ
 ンドの血筋)
はウェイトレスとして働いていました。まさに1960年代の労働者
 階級の典型のなかにカート・コバーンは誕生しています。
 ただ、コバーン家は隣近所のみすぼらしい家とは違ってどこか品が良く、綺麗な
 家だったようです。またカートが誕生して半年の時、両親は小さな村を出て近隣
 の大きな町アバディーンに引っ越します。こうしたことが後にカートに、「両親
 は中流を気取った下層白人」と言わせた原因の一つになっているようです。

 

 怖いくらいに早熟だった幼少期

 カートの「マインド・ツリー(心の樹)」の奥深くに潜んだ球根は、幼少にして
 すでに<エネルギーの塊>だったようです。その<エネルギーの塊>はまるで
 何かに憑かれたような衝動を絶えず引き起こしていたといいます。当初は母ウェ
 ンディや周りの者たちは、カートの早熟性を感じ取っていました。衝動的に騒ぎ
 たてないかぎりは、利発な子供でした。
 「カートは、なんだか怖いくらいに頭の良い子だ」と皆で話していたこともあっ
 たようです。加えて、愛嬌があっておどけた仕草で皆を笑わせるので、カート少
 年は叔父や叔母たちの間で人気者でした。

 

 

 

 薬が処方された異常な興奮状態

 ところがカートの異常な興奮状態はかなり頻繁に起こっていて、いったん興奮す
 ると誰もおさめることができなかったようです。そのため両親は病院で処方され
 た覚醒剤の一種のアンフェタミンのリタリンをカートに飲ませるようになりま
 す。リタリンは子供の異常なエネルギーを抑えるためのものですが、カートには
 効果がありませんでした。逆に夜中の3時まで騒ぎたてるようになったため、鎮
 静剤に切り替えますが、今度は効き過ぎて授業中に眠てばかりに。こうした事実
 をどうとらえればいいのでしょうか。これは何を物語っているのでしょう。
 このカートのエネルギーはどこからやってきたものなのか。身体的なもの、つま
 り脳の機能の問題なのか、それとも生来の魂のエネルギーなのでしょうか。にわ
 かには分かりませんが、すでに幼少期にして爆発的なエネルギーを日々放出し続
 けなければならなかったことだけは事実です。

 心の中の友をつくりだすー「Imaginary Friend」

 すっかり困り果てた両親は今度は食事療法を採用しています。シュガー・オフの
 食事療法でした。しかし効果は両面的で、騒々しさはあらかたおさまったのです
 が、今度はあちこち出歩くようになり、そこで悪戯をするようになってしまった
 のです。しかもその悪戯は、カートには記憶がないようなのです。悪戯をして怒
 られると「僕じゃない、ボーダがやったんだ!」と叫ぶのです。カートのなかに
 「ボーダ」という悪戯好きの友達が生まれていたのです。
 友達「ボーダ」は精神医学でいう「イマジナリー・フレンド」、つまり<想像上
 の友達>です。幼少期の子供に多くみられる心的現象で、成長すると自然といな
 くなってしまう友達で、「自我」が強いストレスを受けた時に「自我」を守るた
 めに生まれる友達です。画家フリーダ・カーロも6歳の頃から3年間「イマジナ
 リー・フレンド」をもっていました。しばらくの間、カートも「ボーダ」を日常
 的に心的現象として生みだしていました。食事の時でもカートは「ボーダ」がい
 ると言い張るので、両親は目を丸くしながらもボーダの席を別にもうけていたそ
 うです。

 胎児期の影響

 幼少期からカートが騒々しかったのは、胎児期での影響が大きいはずです。胎児
 はあらゆる外界の刺激に、五感のすべてで反応していることが多くの実験結果か
 ら知られています。カートが幼児期からすでに音楽への感心を示していたと言わ
 れますが、より正確に言えば、すでに胎児期から膨大な、しかも刺激的な「音」
 を聴いていたあらわれにすぎません。
 幼少期にその感覚をどう処理すればいいのかわからないため、カートは自ら
 「音」を出して騒いだり、さらにその騒いで出た「音」で感覚が満たされるよう
 な状況だったのかもしれません。カートが4歳の頃の歌が録音されていますが、
 それ以前からカートの一番の興味は「音(楽)」だったと両親や親類は語っ
 ています。

 

 周りはいつも音楽で満ち溢れていた

 カートの周りには音楽が好きで、いろんな楽器を弾ける人たちが沢山いました。
 母ウェンディの実の兄姉は2人とも音楽をやっていましたし、兄チャックはロッ
 ク・バンドを組んでいて、姉メアリーはアバディーンの酒場でレギュラー出演す
 るカントリー・シンガーでした。それに叔父のデルバート・フランデンバーグも
 アバディーンでデビューし、レコードも何枚か出していました。
 さらにいえば、母ウェンディ自身も若い頃はドラマーになろうとしたことがあり
 ました。こうした音楽的環境が、胎児期のカートに、そして性格や感覚がほぼ決
 定する3歳までに影響を与えなかったことは逆に考えられないでしょう。
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